2回目観たら割とスッキリした。
前回感想を引用しつつ、整理
セット
深馬が倒れて入院したときのベッドに取っ手ついてることにちょっとツボってしまった。セットの中にしまわれているものを、入院シーンのときだけ引っ張り出してるってことだよね? 反対側から押してもよさそうなものなのに、引いてあのベッド出してるのか……。
キャストの人が椅子運んだり机運んだりしてるところ、「演劇!」って感じで好きだったな。原田くんと北見くんが運んだソファーに深馬くんと杏奈ちゃんが座るところとか。小説でも漫画でも映像化でもできない舞台ならではの演出、たくさんあるところが好きだった。
この演出までは加藤さんじゃなくて瀬戸山さんの手腕だと思うけど、たぶん加藤さんもこれ見てほんとに満足しただろうな~ などと勝手に思ったのでした。
熱中症で倒れた深馬くんが目を覚ますところ。そのシーンから急に深馬くんの左もみあげあたりに大きな肌荒れがあるのが見えた。「時間の経過を肌荒れで表現?!」などと思っていたのですが、よくよく考えたらその前のシーンが激しく感情をぶつけあうところだし走り回るし、汗でファンデーションが落ちたんだろな。それは演出ではないっぽい。笑
まみとみうま
自分自身の才能の限界と向き合いたくなくて病んだのか。
「深馬くんがなぜ真未を作り出したのか」ですが、同じ美大生の原田・北見たちが劇中で「あいつも才能の限界が見えたんだと思う」というようなことを言っていたので、↑の引用のとおり、かなと。
限界が見えていた深馬が真未を作り出したことで良い絵が描けて、ロランス朱里というキュレーターに認められたという展開は皮肉ですが。その結果、深馬はどんどん真未という架空の存在にのめりこんでいく。
真未の存在を肯定していればこの先も絵を描けたのかもしれないが、イマジナリーフレンドがいないと描けないっていうのは、やっぱり才能の限界なのか。そういう種類の天才になるには、深馬はあまりにも冷静すぎたのかもしれない。
深馬と真未が初めて出会ってお互いの名前を名乗るシーン、「マ行ばかりだね」って話してるの、「みうま」「まみ」で対称的な同一人物ですよってことだったのか。マ行っていうのは上唇と下唇くっつけないと発音できないですしね。
深馬と真未が言い争うシーンで真未が「お前は人に依存しないと生きていけない」というようなセリフで深馬を罵っていた。(真未は深馬自身なので)深馬はそれを自覚しつつも最後、杏奈に泣きながら電話してしまうという展開。原作でも同じ展開なんだけど、「女にすがりつく」ことを指摘するセリフが挟まることで、なんか、「気づいてたんだね…」という気持ちになった。気付けてよかったね。
そう、最後に、深馬くんが杏奈に泣きながら電話してるのが、物悲しかったな。正門くんが本当に声詰まらせてて、観てるこっちもつらくなった。最後両手で鼻と口元抑えながら頭下げてはけていったけど、結構感極まっていた。
感極まるといえば、深馬にスプレーを隠されて泣きじゃくる真未も、あの大きな瞳で本当に泣いているのがはっきりと見えて、びっくりした。感情と感情がぶつかりあってる。
物語の主人公、主人公の物語
杏奈ちゃんのこと、
深馬が勝手に「自分にとって都合がいいように妄想している」から、私にもあれだけ「都合がいい女」に観えた
と思っていたんだけど、ここはちょっと勘違いしていた。
初見の際に「真未は深馬の脳内人物」という改変が衝撃的すぎて、物語全体を架空と捉えていたけど、2回目観たら、あれ、これ結構事実の部分も多いのか、という気付きを得た。
深馬が杏奈について記憶を書き換えてるところなんて1個もないかもしれない。
深馬の気が触れたのは、冒頭、キャンバスが腕に当たってから。
みんなでお酒飲みながらわいわいやってるとき、深馬が杏奈ちゃんを膝の上で乗っけてイチャイチャするところがある。そのあと、大きな声に驚いて? だったかな? キャンバスが倒れて当たり、深馬に当たる。深馬は前腕を確かめるように触る。ちょうど、いつも真未がスプレーを振りかける前腕のあたり。深馬はそれから、狂ったように笑い始める。
で、深馬の脳内ストーリーだったのは
・真未の存在、真未に関わること
→これは存在自体が妄想。実際は深馬がやっていたし、深馬が考えていたこと
・ポリダクトリーは自分と真未の2人が通り魔的にやったこと
→本当は、キュレーターのロランス朱里によるプロジェクトで、深馬も実際に参加していた(ということが、3月卒業式の飲み屋での話で分かる)。
どの絵がプロジェクトだったんだろ? 恐竜は勝手に描いたものかなという気もするけど。ヤギと蛇以降がプロジェクトのもの? ここはどうとでも取れるかな?
あの大きな目は、なんだったんだろう。物語の転回点?
・滝川が、深馬の手柄を横取りしようとしていた、また、橋梁に勝手に絵を描いた器物損壊罪で大学を追われた
→実際は、絵の勉強をし直すためにフランスに渡った。深馬が倒れている間のことだったので都合よく記憶改ざんした?
ぐらいで、あとは事実だったのかも。
杏奈ちゃんが面接で尊敬する人物に深馬くんの名前を上げたことも、北見くんに深馬くんのこと相談するシーンとか。
↑ここも全部本当の話、でもおかしくない。
杏奈ちゃんに「尊敬する人物で深馬くんのこと話したよ」に言われたときの深馬、すっっごく嫌そうな顔してた。なにがそんなに嫌だった?
「謙虚」って言われたこと? はたまた、自分が伸び悩んでいく横で踏み台にされて跳躍していったことが苦々しかった? 「いまそんなことを話してる場合じゃない」って思った?
そうそう、この面接の下りが事実のように思えた理由がもう1個あって。
杏奈は劇中で「変わった」と思うんですよね。北見くんと杏奈の会話で杏奈が「私も変わりたい…!」ということを言うので。変わった結果があの面接の堂々とした受け答えだとすると、面接も事実かな、と。
しかし杏奈はなにをきっかけに、どう、変わったんですかね。 深馬を客観的に見るように、受容するようになった?
杏奈といえば「シングルマザー育ちで高校のころからバイトをたくさんしてた」という設定を付加された意図も気になる。
最初に観た時は、最後に居酒屋で北見・原田の口から語られる「事実」としての「ポリダクトリー」のところがよく聞き取れなかったから全体像がぼやっとしてたんだけど。
橋梁に深馬が絵を描いたことは事実、そして他の誰かも橋梁に絵を描いたことが事実だとわかったので。杏奈が深馬にポリダクトリー描いた人の動画をインスタで見せたのも、事実である可能性があり。
そうすると、割とこの物語、深馬の妄想の部分って最初に思ったより少ないことに気付いた。
「染、色」という物語全体を「精神を病んだ大学生の物語」として捉えていた。
けれど、事実ともとれる部分を事実とするなら、これは
「精神を病んだ大学生と、その周りにいる人々、友達、恋人、先生という人々それぞれの物語」
だったな。
そういえば加藤さんもパンフレットで「群像劇」と言っていたのでした。
杏奈も原田も北見もそれぞれ悩み多き大学生であり、それぞれがそれぞれの進路に進んでいく。深馬を置いて。
未来の自分
原田くんが滝川先生を好きだったという、「同性愛者」であったという最後に挟まれるエピソード(そしてとくにゲイやバイという改めての言語化はない)、それをもとに最初から振り返って考えてみると、新たな発見ありそう。
冒頭で原田が「女の子は寂しいときに寂しいって言えない」というような…ちがうかも…なにか女子の心情を語るシーンがあったんだけど、それ伏線だったかな~。と思いつつ、『ゲイ=女性の考えも分かる』はステレオタイプというか、演出としてどうかな、とも思ったので微妙なところ。
原田くんは滝川先生を好きだったけれどそれは誰にも言ってなかった。
深馬は原田くんからそれを教えられたというストーリーを頭の中で作っていたけれど、実際にはただ、観察して、気づいただけだった(そして実際に好きだった)。
深馬くんは自分のことはあまりさらけ出さないけれど、注意深く周りを見ている。原田の恋心に気づいたのもそうだし、北見に「杏奈ちゃんのことちゃんと考えろよ!」って怒鳴られたときも、「いつ杏奈としゃべったんだ?」というところにすぐ思い至るし。
自分の才能の限界も冷静に気づいてたのかな。大学入って北見くんに出会ったあと「遊びの場に連れて行ってほしい」って頼んだのは、煮詰まりかけていた深馬くんの打開策の1つだった?
深馬くん、滝川先生にも相談してたときもとても具体的だった。
「感情で描いていたけれどそれが枯れてしまった」「でもそれに焦りがないことに焦っている」というような。
自分も周りもよく観察してる。だからこそ、矛盾しないストーリーを生み出すことが出来てしまった。
「滝川先生はクラスで孤立していた原田に、北見・深馬(それぞれ首席)と仲良くなれば人の見る目が変わる、とアドバイスした」
ということを、深馬くんの脳内ストーリーの中で原田くんが語る。これ自体は事実かどうか言及されないけれど、これもまた、事実でもおかしくないエピソード。
深馬くんと滝川先生はよく似た人物として描かれているから、深馬くんが考えたこと、滝川先生も考えていてもおかしくない。
冒頭、杏奈ちゃんとあっという間に話が盛り上がる滝川先生を見て、深馬・北見・原田が「滝川は人たらしだ」という話をしていた。人たらし、そしてあっという間に仲良くなるところ、深馬と重なる。深馬も、大学の文化祭で北見が声をかけた杏奈を最終的に惹きつけていた。深馬、「ひどい男」なんだけど、みんななんだかんだ深馬のこと好きだよね。パンフレットでも言っていたけど。
人たらしの滝川と深馬。美大講師と予備校講師(アルバイト)。
美大予備校講師に就職するかもと話していた深馬くん。自分の将来が滝川先生のようになることどこかで考えていただろうか。
深馬と真未の間でも滝川先生のこと話題に上ってたね。
「どんなやつ?」「いいやつ?」「いいやつも脱税するんだよ」
深馬くんのなかに滝川先生に対する懐疑心とか見下す気持ちがあったから、深馬くんのなかでの滝川先生が「自分の手柄を横取りしていった」という位置づけになったように感じた。北見・杏奈に対する「妄想」はほとんどない(とも考えられる)けど、滝川に関する事実改変は絶対にしていて、それも、本人の信条をすべてひっくり返すぐらいの事実誤認。原田と滝川が脳内でセットになってるから原田に関しても深馬は少し事実誤認しているけれど、対滝川の改変のほうが断然大きい。
そしていなくなった滝川先生と同じく、深馬くんも「美大予備校講師」という学生に教える立場になろうとしている。北見くんが出版社(たしか)、原田くんがデザイン会社に就職したのとはまた別の道。3人のなかで1番滝川先生に近い。
「滝川先生は気を病んで自分の絵を横取りした」、そしていなくなった滝川先生の、あとを追うような道に進もうとしている、まさにそのとき。
事実はそうでなくて、滝川先生は夢を追うためにフランスに渡ったのだと聞いた深馬くん。
滝川は自分に嫉妬していたのでもなく、自分の作品の手柄として大学を辞めていったのではなく、ただ、自分にはまったく関係のないところで生きている。しかも自分が、その時点ではほぼ諦めかけている絵の世界で生きようとしている。
そそて、二重三重にショックを受ける深馬くん。
大人になる通過儀礼として、師を殺した深馬くん。でもそれはただ脳内で行われただけで、実際は死んでなかったし、なんなら自分より全然遠くへ飛んでいく。
すべてが自分の妄想で良いように作り上げたストーリーで、見下していた周りの人(滝川先生、杏奈、北見くん)は自分をまきこみつつどんどん飛躍していく。
それに気づいたときの深馬くんのこと考えたら、なんか、ぐうう、、、ってなっちゃうな。本人が悪いんだけどさ、、、
人を見下さないと自分を保てないし、でも人に依存しないと生きていけないんだよ、深馬くんは。
全体的に「加藤シゲアキ」っぽいな~って感じの物語だけど、その中でもこの、滝川先生に関するあたりもすごく「加藤シゲアキ」だな~っていうか。なんていうか。
↓タイプライターズでこの本おすすめしてた加藤さんだから、舞台でも「通過儀礼」書いたんだなと思った。
で、それが一筋縄でない通過儀礼といいますか。ひねりのある。かわいげのない、素直じゃない。2回死ぬという。
ラストシーン
自慰シーンの深馬くん、うつぶせのまま延々と腰を振っているのに全然達せてなくて、なかば冗長さを感じるぐらいに長いシーンで、ああ、深馬のあの精神状態これからもずっと続いていくんじゃ……という恐怖があった。長かったね……。
『染、色』感想(ネタバレ有) - ロマンはどこだ?
これについては、 2回目観たらそんなに長くなかったです。 1回目なにを観ていた?w
夢見た芸術の世界から、これまでの脳内ストーリーからの決別という通過儀礼のシーンとして最後になにがしかの出来事は描かれたと思うけれど、もし原作が自慰シーンでなければ、舞台でも自慰シーンじゃなかったかもな~ どうかな? どうですかね。
グリーンマイルでも尿管結石の役だったから股間抑えるシーンあったしな。自慰シーンにしてたかな。わからん。
え、オマージュ? いやいや……
最後に出てくる真未は桜舞う中に立っていた。深馬くんは真未がいないと咲けないだろうか。
最後のシーン、
深馬が杏奈に電話する → 白い衣装を来た真未が桜舞う中で立っている
と続くので、真未との決別なんだな、と思いました。加藤さんがパンフで原作と舞台との違いを「最初と最後が終わりで真ん中は居抜き」と言っていた意味が理解できた。どちらにしろこの物語は、男子大学生が自分と違う女性と出会い、別れ、芸術の世界から去っていく物語だったんだな。
3月、卒業シーズンの春に咲いた桜のしたにいる真未。
真未がいたから、「秋に咲いた」深馬は咲けた。でもあそこで、最後、杏奈に電話をした深馬は真未ともう会わないんだと思った。深馬は「美大予備校の講師」になって生きていくんだろう。
桜・大人になる、といえば「ひとひら/ポルノグラフィティ」なのでぜひ聴いてください。
大人になった深馬くんも予備校でこれを聞いているかもしれない。
「あれは友達を傷つけそして 自分さえも傷つけた言葉」
でも、あの世界での「大人になった深馬」として描かれていた滝川先生がフランスに絵の勉強をしに行ったのだから、深馬くんも、いつかもう1回絵の世界に行くかもしれませんね。